9月某日、試合後の平野恵一選手にどうしても聞きたい話があったので、クラブハウス前で待っていました。
しばらくして、ベンチ裏で素振りでもしていたのでしょうか、他のメンバーからは少し遅れ、顔に汗をしたたらせた平野さんがうつむきながら戻ってきました。
どうしても話したい! 勇気を出して一歩を踏み出したのですが、平野さんの深刻そうな表情になんだか近寄りがたい空気を感じ、それ以上足を進めることが出来ず、その日は話を聞くことが出来ませんでした。
翌日、平野さんとお話しする機会があったので「昨日は気分がすぐれなかったんかと思って、声をかけられませんでした」と伝えてみると、私に向かって、超真顔で“嘘ビンタ”(両手で音をたてるアレ)。ギャッ、なんすか!?
「なんのために鳴尾浜でオレの取材してたの?」
それから、平野さんの長〜いお説教が始まりました。
「確かに話しかけづらい時もあるかもしれない。でも、オレだってちゃんと記者のこと見てるから。オレがけがしてリハビリやってる時に、汗水たらしてジッと練習終わるの待って、復帰するまでを記事にしてくれた記者たちは大事にしないといけない、って思ってるから。せっかく時間かけて信頼関係を築いたんだから、勇気出して、どんな時も積極的に動かないと。あの時期の取材は、記者として生かさないともったいないよ」
あまりの熱弁に感動してしまい、その際のお言葉のほぼ全文を掲載してしまいました。
取材相手である選手たちこそ、記者修行における最大の教師なのかもしれません。記者が選手を見ているのと同じ時間、選手も記者を見てくれています。日々熱心な取材を積み重ねていった記者には、きっとその信頼の分だけ、丁寧にコメントを返してもらえるはず。
平野さん、ありがとうございました。あの“嘘ビンタ”はしっかり心に打ち込まれております。
脇村 悠美(わきむら・ゆみ)
1985(昭和60)年10月1日、和歌山県生まれ。関大卒。08年4月入社。学生時代はスポーツ新聞部でフィギュアスケート取材に没頭。将来の夢は日本一のフィギュア記者。現在は新米記者として修行の毎日だが、「ベンチをブルペンと呼んだ」「試合中の放送席に乱入」など“脇村伝説は数知れず”